シロアリ話.4-床下


・・・
 それから数年後のつい先日のこと。
 ある朝にキッチンに出ると、そこに大量の羽アリがいた。
 縁の下から大量に這い出てきたのか床をゆるゆるとうごめき、朝日の差し込む場所に大量にも集まっていた。 暗いキッチンでもそこだけ外の窓から陽が差している場所に集まっていた。

 ざっと調べるとそれはシロアリのようだった。
 シロアリはのれん分けをするものらしい。分家として家を出るのがいるらしい。そうして子孫を繁栄させるわけか。
 そのための 羽アリの大量発生と旅立ち が起きているための現象らしかった。



 つまり分家ができるぐらいにまたシロアリの勢力が強くなっているということか。
 目の前の羽アリは掃除機でことごとく吸い込んだ。
 どうも出てきたらしいところも特定できたので、そこから湧いてくるのをことごとく吸い込んだ。こっちは軽いヒステリー状態でもある。

 さて大量の羽アリはわけもなく片付いたが、落ち着いて考えればどれだけの数がまだ離陸に待機しているかわかったものではなかった。
 それ以上に、どれだけ縁の下のジメジメしたところでシロアリが繁栄を極めているか、どれだけ家屋が侵食されているか、それを考えるとゾッとした。



 ふと見ると、キッチンから外へ出る扉の辺りにはまだ十数匹が残っていた。陽射しがその扉の向こうにあるとわかった賢い一部の連中ということだろう。
 扉を開けてみると、外のどこかへゆらゆらと飛び出していく。まぶしい朝の陽の明るい方向へ向かって真っ直ぐにふらふらと飛んでいった。
 それこそ掃除機で吸い込む必要もないぐらいで、あっさりと家を後にするのだった。扉の辺りは何も掃除の必要もないぐらいキレイにいなくなってしまった。


 飛んでゆくその姿を見てつい、「悪魔を放ってしまったか」などと呟いてみたが、実はとてもそんな冗談にはならなかったらしい。
 暖簾わけで外へ出た羽アリたちは外のどこかへ飛び立ち、適当な場所を見つけるとその羽を自ら落として分家となり、女王を選出して巣を作る。そしてその新しいコミューンで別な家の食害に励むことになるのだという。
 なんということだ。
 そんな事情を知ったときは後の祭りだった。まあ、十数匹ではあったが。

 今の日本にも共産党のコミューンだかどこかの連中がいかがわしい活動をしていて、九条だの護憲だのセクハラだのと意味の通らないいいがかりの理屈をつけて倒閣運動をやっている。無責任に倒閣後のことも考えず、とにかく今の政府に仕事をさせないように必死だ。日本が混乱でズタズタになってしまうだけを望んで、アノ手この手の活動をしている。老人にカネを払い動員までしているそうだが、ああいうのはいったいどこから来たのれん分けなのだか。(笑)

 ともかく、羽アリを見たということはシロアリの巣が大きくなっている可能性があるとは思った。
 分家に出すほど巣が飽和状態 になったということで、そういう分家の儀式が済めばこちらの本家も活動がさぞ活発になって食害も進んでゆくのではないかと想像した。




 それで、 「シロアリハンター」なるものがいいというので仕掛けることにした。

 そもそもシロアリには殺虫剤はよろしくないとのことだ。
 前につい噴霧してしまったがああいうのはよくないらしい。
 警戒心が強く、なにしろ数が膨大にいるので殺虫剤で殺せるのはわずかな数でしかなく、殺虫剤を使えば使ったで巣を変えて移動してしまうだけになるとか。結局、根絶することにはならず、分散させてしまうだけなのだとか。
 そこでやはりこういう「持ち帰らせる系」の毒餌 が効果的ということらしい。




 ホウ酸系のものは効果がないのかシロアリ用には売られていないようだ。
 この「シロアリハンター」という薬剤は「ほうさん団子」とは違うが、同じ原理でシロアリの巣を攻撃する。
 黒蟻のように巣に持ち帰らせ、時間差で滅亡に追いやることができるとのことだった。

 ただしこの薬剤はホウ酸ではなく別のものが入っている。
 なんと 「脱皮を阻害する」 ものが入っているそうなのだ。
 シロアリは脱皮をしないと死んでしまう ということで、それを与えて食わせる。
 シロアリも仲間で分け合う階級と役割のある集団を作っているから、毒エサだと気付かずに時間をかけて回させ、ゆっくりと効果を与えられ、集落の井戸に投げ込んだ遅効性の毒のようにゆっくりと効果的に死滅させることができる。
 シロアリの脱皮を阻害する成分などよく見つけたものだ。これにはつくづく感心した。
 人間の英知には脱帽する。


 そしてとうとう、 床下に決死の思いで潜ることになった。
 ありとあらゆる害虫、大量発生したシロアリなど、それこそ何かの死骸や人間の骨があってもと覚悟して床下に潜ってみたが、案外と床下はキレイで澄んだ静かな空間だった。
 驚いたことにクモの巣すらなかった。


 床下は実に静かで空気が澄んでいて、そこが土であることを考えなければむしろ清潔な印象すらあった。
 それに、あちこちの柱や板が腐ったり食害に逢っているというわけでもなかった。キレイな床下に思えたのだった。
 上の部屋の、それこそ我々の神経に障るような騒ぎに比べれば実に静謐な空間だった。

 這いつくばり、羽アリが出たらしいところまで這って行って仕掛けた。土汚れには開き直って匍匐前進した。だけれども、気持ちの悪いものにはまるで出逢わなかった。
 そうして這っていって横を見ると、床を支える柱に奇妙な跡がウネウネと残っている。砂をまぶしたような、紐のようなものが下から上へと伸びていた。触ってみると、ボロボロともろい。ミミズ腫れのような感じでいくつかの柱についていた。馬鹿げたことに、床下にいる時にはそれが何かてんでわからなかった。

 しかしともかく、どこにも想像していたような蟻塚とか、大きな巣のように見られるものはなかった。きっとどこか、食害されている木材の内部が巣ということなのだろうか。
 羽アリが出たあたりの光の当たらないところ、縁の下の土を掘って毒餌を埋めることにした。
 いずれこのエサを発見してくれることを祈った。有効期間は二年もあるそうだからきちんと仕掛ければ後は気長に待てばよいということだ。それも次の脱皮までということだから気の長い話には思えた。

 うまくいけば持ち帰ってくれ、仲良く分け合ってくれれば、脱皮という時間差で効果が出てシロアリはゆっくりと全滅してゆく。
 最後の最後に女王に給餌する者が絶えてしまい女王が餓死してエンドという算段だ。
 

 ともかく、これからはいつでも床下を這いつくばることができる。何か妙な自信だけはついた。

 何でも、やる前とやってからでは童貞の前と後ぐらいに違う。



 ・・・こんなことも「セクハラ発言」になってしまうのかは知らない。



 【 文責 padroll 】


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