シロアリ話.3-アリメツ


・・・
 それから翌々年のこと。

 風呂に小さな黒い蟻が突然大量に発生した。タイル工事をしなかった側の木のいくつかの腐った穴から蟻が次から次へと湧いていたのだった。


 甘いものなどないのにワラワラとあちこちから這い出してきて、行列やらサークルを作っていた。順番待ちがどれだけあるのかというぐらいの勢いで風呂の洗い場は黒い蟻で混雑していた。
 まだそれほど腐ってないと思っていたが、踏み板の隙間から次々と出てくるので、これらの穴はこの蟻のせいじゃないかと考えた。

 シロアリほど食べるのでなくても、黒蟻でも板ぐらいに穴は空けられるんじゃないだろうか。
 シロアリどころか、こんな小さな黒蟻にまで家の梁や床がやられてはたまらない。そう思ったら、行列を作って渦を作っている黒蟻もとたんに憎らしく見えてきた。なんとか駆除できないものか。


ネットで「アリメツ」という専門の薬剤を知り、これを仕掛けてみることにした。漢字で書けば「蟻滅」ということなのだろう。れっきとした商品名である。(笑)


ゴキブリのほうさん団子と同じ成分、同じような理屈らしく、エサを巣に持ち帰らせ、みんなで分け合いながら繁栄するという彼らの習性を利用する。巣の中で伝染するように毒がまわって死滅する。
この 「ホウ酸」というもの、昆虫の代謝を阻害する効果があるらしい。
食べても直接の毒ではない。ただ、新陳代謝ができなくなり死ぬのだ。
食糞の習慣がある連中には特に効果的だという。それがホウ酸系の薬物の特徴だ。
仲間が食べた餌の糞を食う。新陳代謝がそんなにないから食糞の習慣になるのか。その代謝そのものができなくなれば致命的だ。


 このアリメツは毒を盛られたことに気付かれないようにして殺すやり方だ。例えて言えばマスミではないし、平沢ではない。いわばクスリの開発される前におけるAIDSのようなものだ。生活習慣に入り込みじっくりと伝播し、感染して死んでしまう。

 かつて麻薬中毒患者、ジャンキーが注射針を使いまわしていたり、ゲイが肛門で性交することで快楽とともに伝播した。バラ撒くというより伝染してゆく。浸透してゆく・・・。こんな風に書くと不謹慎な言葉と言われるのか知らんが、色々と今の日本では言論がアレなんだろう。「事実としてセクハラという罪はない」と言うと、悪いのだと。辞任しなければならないそうだ(笑)。 アレはまるで逆の嘘か。(笑)。



 アリメツを仕掛けると、蜜に群がるようにして大量の黒蟻が集まった。それこそどっと集まった。ギョッとするぐらいの量が集まった。
 それを見ても驚かないようにする。
 そしてこれには手をかけず、片付けるのではなく放置して我慢する。これだけ集まればいいだろうなんて思ってはいけない。もっと大量の蟻が巣には潜んでいるかも知れないのだ。
 こちらからは手を出さず、自発的に彼らに巣に持ち帰らせるのだ。
 すると蟻はせっせと巣に餌を持ち帰り始める。忘れたフリをしていれば一日で全てのミッションが終了となる。

 そして、こちらのうかがい知れないところにある巣の中の何万何十万という蟻がやがてこのお相伴に預かることになり、アリメツを食べて回し、ゆっくりと 死ぬ。


 とうとう黒い煙が吸い込まれるような感じで群がっていた蟻の姿が風呂場からいなくなった。仕掛けたアリメツはすっかり持ち帰られたようだった。



 それから蟻が姿を現すことはなくなった。

 まるで全滅したかのように消えてくれ、以後出てこなくなった。
 それこそ魔法のように消えた。(笑) 効果はあったようだ。

 その日はいつもより静かに風呂に入った。








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